17-D-0299
2017 年 7 月 13 日
地方銀行の 17/3 期決算の注目点
地方銀行各行の17/3期決算および18/3期業績予想を踏まえ、株式会社日本格付研究所(JCR)の現況に
関する認識と格付上の注目点を整理した。
1. 業界動向
17/3 期は海外の政治イベントに金融マーケットが大きく左右された。米国の長期金利は、上半期は低位
で推移し、10 年債利回りは一時史上最低の 1.3%台となった。中国など新興国経済の減速懸念や資源安に加
え、6 月行われた英国の国民投票の結果が事前の予想を外れ EU 離脱となり、リスクオフの動きが加速した
ことなどが影響した。一方、11月の米大統領選でトランプ氏が当選すると、積極財政への懸念や景気回復期
待から一時 2.6%まで長期金利が急騰した。米国の短期ゾーンの金利については、米連邦準備制度理事会
(FRB)による政策金利の引き上げおよび引き上げ観測を受け上昇基調となった。国内の債券市場について
は、7月に 10 年債利回りで▲0.3%、20 年債利回りも 0%近傍まで低下した。その後、日本銀行によるマイ
ナス金利政策の深掘りが回避されたことや、長短金利操作付き量的・質的金融緩和が導入されたことなどか
ら、それぞれ 0%近傍、0.5%近傍まで利回りが回復している。国内の株式市況は軟調に推移していたものの、
年度の後半にかけて回復に転じた。
地方銀行の収益環境が一段と厳しさを増すなか、引き続き合併・再編などの動きが多くみられた。17年2
月には三重県内で預貸金シェア第2位グループである三重銀行と第三銀行が、18/3期に入った 17年4月に
は新潟県内で預貸金シェアトップの第四銀行とシェア第 2 位の北越銀行が、経営統合に関する基本合意を発
表した。規模の拡大によるメリットに加え、同一県内における再編ということで、重複する店舗ネットワー
クの再編などを通じコストシナジーを捻出する余地が大きいと考えられる。産み出される経営資源を活用す
ることなどで、合併・再編を収益力の強化に結び付けていけるかJCRでは注目している。
また、17 年 3 月には、三井住友銀行傘下のみなと銀行および関西アーバン銀行と、りそなホールディン
グス傘下の近畿大阪銀行が経営統合に向け基本合意したことが発表された。みなと銀行および関西アーバン
銀行の 2 行がりそなグループ入りした後には、りそなグループの商品やノウハウなどの活用による収益力強
化、店舗配置合理化や事務の共同化による経費削減が進められると予想される。
ふくおかフィナンシャルグループと長崎県に本店を置く十八銀行が経営統合について基本合意しており、
同じく長崎県に本店を置く、ふくおかフィナンシャルグループ傘下の親和銀行と十八銀行が将来的に合併す
る方針としている。ただし、公正取引委員会における企業結合審査が完了しておらず、統合スケジュールが
当初計画から延期された状態となっている。同一県内に所在する地方銀行の経営統合において、公正取引委
員会がどういった判断を下すのか、今後の動向が注目される。
2.決算動向
17/3期の地方銀行(地方銀行協会加盟64行)のコア業務純益は3期振りの減益となり、減益率は前期比
で 12.6%と大きなものとなった(出所:地方銀行協会、以下同)。資金利益の減益率が拡大したことが主因
となっている。日本銀行がマイナス金利政策を導入して以降に競合の激化が一段と進み、貸出金利回りの低
下ペースが加速し、貸出金利息の減少幅が拡大した。有価証券利息配当金は、これまで外国証券や投資信託
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少に転じている。資金調達費用は預金利率の引き下げが寄与したものの、外貨調達コストの増加が影響し、
資金利益への寄与は限定的なものに留まった。手数料収入など非金利収益である役務取引等利益は、16/3期
より大きく減益となった。国内の株式市況が年度の前半に低迷したことなどから投資信託の販売手数料が減
少した。また、円市場金利の低下などを受け保険商品の販売も低迷した。フィデューシャリー・デューティ
ーへの取り組みの一環として行った、保険代理店手数料の開示、手数料受領方法の変更も一時的に影響した
とみられる。総資金利ざやROA(コア業務純益ベース)でみた収益性は、低下ペースが再度速まるかたちと
なった。
国債等債券関係損益はリーマンショックの影響を強く受けた 09/3 期以来の赤字となった。米大統領選以
降の米国長期金利の急騰を受け、米国債を中心とする外国証券の残高削減や低利回り債の入替売買などに伴
い、損失計上が拡大した影響が大きい。一方で、株式等関係損益が大幅に増加したが、国債等債券関係損益
の赤字を一部吸収する狙いもあったとみられる。全国的に企業倒産件数が落ち着いている状況に変化はなく、
与信費用は引き続き極めて低水準での推移となった。コア業務純益の減益に加え、国債等債券関係損益での
損失計上などにより、経常利益は前期比18.5%減と8期振りの減益となった。当期純利益は前期比15.4%の
減益であった。
貸出金平残は前期比 3.9%の増加と、引き続き高い伸び率を維持している。貸出先別(末残・国内店)に
みると、中小企業向けが7期連続で増加、残高の増加率は前期比 5.3%と、14/3期の同2.1%増、15/3期の
同 3.9%増、16/3 期の同 4.8%増から増加ペースが一段と加速している。不動産賃貸業向けの貸出増の寄与
は小さくないとみられるが、低利の大企業向け貸出の削減とあわせ、収益力の強化に向けた取り組みの成果
がみてとれる。ただし、貸出金利回りは前期比 10bp低下の 1.20%となった。14/3期に同 12bp 低下、15/3
期に同9bp 低下、16/3期に同 8bp低下と、利回りの低下ペースは緩和傾向にあったが、17/3期は再度加速
するかたちとなった。
有価証券平残は前期比 1.0%減と、小幅ながら 2 期連続で残高が減少した。日本銀行によるマイナス金利
政策の導入を受け円市場金利が低位で推移するなか、国債を中心に円建債券の残高が大きく減少した。一方、
外国証券の残高は前期比 7.5%の増加と、16/3期の同 17.6%増から伸び率は鈍化したが残高の増加が続いた。
投資信託などを含むその他の有価証券の残高の伸びは前期比 38.2%の増加と引き続き高い伸び率であり、円
建債券に比べて高いリターンが見込める資産への残高シフトが続いている。有価証券利回りは上昇が続いて
いたが、17/3期は前期比並みにとどまった。
預金平残は前期比 2.5%増と、安定的に増加している。預金者別(末残・国内店)にみると、一般法人預
金は前期比 4.2%増、個人預金が同 2.3%増と増勢を維持。預金種類別では、要求払い預金が前期比 6.3%増
と増加率が高まった一方、定期性預金は同 3.3%減と減少率が拡大した。預金等利回りは 0.04%と前期比で
1bp低下した。
金融再生法に基づく開示債権額は前期比で 7.7%の減少と、引き続き大きな減少率となった。総与信に対
する開示債権額の比率は1.84%と、前期比で0.23%ポイント低下した。新規の不良債権発生が抑制され、ま
た、既存の開示債権先の信用力の改善が進んでいることなどが寄与しているとみられる。
連結自己資本比率は、国内基準行(54行)は10.32%と前期比0.35%ポイント低下、国際基準行(10行)
は 14.38%と同 0.20%ポイント低下した。内部留保が積み上がっているものの、貸出金残高増などに伴うリ
スクアセットの増加が影響しており、国内基準行ではバーゼルⅢへ移行して以降、17/3期末まで3期連続で
連結自己資本比率が前期比で低下している。株式市場における株主還元への要求の高まりに対し配当の積み
増しや自己株取得で対応する銀行がみられる一方、一段の貸出資産の拡充などに備えエクイティファイナン
3.格付上の注目点
基礎的な収益力は 17/3 期に大きく低下した。マイナス金利政策が長期化すると、引き続き低下圧力が続
くと考えられ、各行の収益力強化策の成果が注目される。18/3期のコア業務純益額の計画およびその内訳を
公表している地方銀行40行のうち、12行が増益を、12行が減益率の緩和を計画している一方で、半分弱の
16行は、コア業務純益の減益率が拡大する計画としている。資金利益については、引き続き厳しい見方をし
ているものの、40行のうち5行は資金利益の減収に歯止めを掛ける計画としている。役務取引等利益を中心
に非金利収益の増加で資金利益の減少を緩和する計画としている先が多くみられる。
17/3 期に加速した貸出金利回りの低下ペースを、18/3 期にはどの程度まで緩和させることができるか注
目される。各行とも、比較的高い利回りが期待できる地元中小企業向け貸出残高の伸長に注力しており、既
に一定の成果に結び付いている。17/3期はマイナス金利政策導入後に顧客からの利率引き下げ要請が強まっ
たとみられるが、今後、ある程度の利回りを確保しつつ残高増に結び付けられるかがポイントとなろう。ま
た、高い利回りを確保できるカードローンの残高を積上げる動きもみられ、貸出金利回りの下支えにも大き
く貢献している。ただし、銀行のカードローンを巡り、過剰融資とならないよう防止策を講じる動きがみら
れる。具体的には、年収証明書の必要となる融資額の基準引き下げや、広告宣伝の抑制などを図っており、
今後の動向が注目される。有価証券利息配当金は、これまで収益の下支え要因となってきた。ただし、米国
を中心に長期金利上昇懸念が強まり、また、ドル調達コストが高まるなかで、当局もリスクテイクの動向を
注目しており、運用方針を大きく見直す動きも見られる。
資金利益への下押し圧力が残るなか、非金利収益の拡大計画を打ち出している銀行が多くみられる。中心
となる預り資産販売では、営業人員の増加、システム導入による効率化、商品ラインナップ拡充などで業容
の拡大を企図している。ただし、金融マーケットの先行き不透明感が増すなか、手数料率の下押し圧力も勘
案すると、預り資産販売にかかるフィー収入を持続的に拡大することは容易ではないと考えられ、今後の進
捗を見守っていく必要がある。また、法人向けフィービジネスの強化で成果をあげている銀行も散見され、
預り資産販売以外へも収益源の多様化を図ることは引き続き重要と考えられる。
JCR では銀行等の格付に際し、事業基盤と、資本充実度や貸出資産の質、収益力など財務基盤への評価を
重視している。事業基盤については、主要な営業地域の産業構造や金融市場の規模に加え、他金融機関との
競合状況、個別行における資金量や貸出残高などの市場シェアを確認している。資本充実度をみると、地方
銀行のコア資本比率は、足元においては緩やかに低下してきているものの、ヒストリカルにみて高い水準に
あると評価している。ただし、一部の銀行においては、貸出金残高の一段の伸長を図るのに際しリスクアセ
ットが制約要因となるところもあるとみられる。また、貸出資産の質は、企業倒産件数が低水準で推移する
なか従前に比べて大きく改善してきており、このため与信費用は抑制されている。
収益力については総じて低下基調にあるが、貸出金利回りの低下を主因とする収益力の悪化のみを以て、
地方銀行の構造的な格下げ要因とは捉えていない。今後、マイナス金利政策が長期化した場合は、収益への
マイナスの影響が一段と高まる可能性がある。その際にも、資本充実度や貸出資産の質に対する評価などと
のバランスを勘案しつつ、各行ごとに収益力の動向を見極め、格付へ反映していく方針である。ただし、格
付対比でみて収益力の見劣り感が強い場合は格付上もネガティブな評価をしており、特に、基礎的な収益に
よって今後想定される与信費用を十分に吸収できないと判断されるケースなどでは、実際に格付、あるいは、
見通しを変更した事例も多い。
4/5
(図表1)損益推移
-698
5,516 5,427 5,794
6,496
7,808 8,211
9,403
7,954 14,200
13,298
12,750 12,337
11,969 11,911 12,128 12,191
10,660
-2,000 0 2,000 4,000 6,000 8,000 10,000 12,000 14,000 16,000
09/3期 10/3期 11/3期 12/3期 13/3期 14/3期 15/3期 16/3期 17/3期
(億円)
当期純利益 コア業務純益
(図表2)貸出先別の貸出金残高増減(末残)
-1.0 -0.5 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5 4.0 4.5
11/3期 12/3期 13/3期 14/3期 15/3期 16/3期 17/3期
(兆円)
法人(除中小) 中小企業
地方公共団体 個人
(図表3)利回りの推移
2.12
1.93
1.82
1.71
1.59
1.47
1.38
1.30
1.20 1.42
1.26 1.19
1.1
1.0 1.05 1.06 1.13
1.13
0.29
0.19 0.12
0.09 0.07 0.06 0.05 0.05 0.04
1.83
1.74 1.7
1.62
1.52
1.41 1.33 1.25 1.16
0.00 0.20 0.40 0.60 0.80 1.00 1.20 1.40 1.60 1.80 2.00 2.20 2.40
09/3期 10/3期 11/3期 12/3期 13/3期 14/3期 15/3期 16/3期 17/3期
(%)
貸出金利回り 有価証券利回り
(図表4)与信費用・与信費用比率の推移とコア業務純益との比較
14,200
13,298
12,750 12,337
11,969 11,911 12,128 12,191
10,660
8,140
5,074
3,485
1,587
2,209 782 388 372 442
0bp 10bp 20bp 30bp 40bp 50bp 60bp 70bp
0 2,000 4,000 6,000 8,000 10,000 12,000 14,000 16,000
09/3期 10/3期 11/3期 12/3期 13/3期 14/3期 15/3期 16/3期 17/3期
(億円)
コア業務純益(左軸) 与信費用(左軸)
与信費用比率(右軸、与信費用÷貸出金平残)
(図表5)資本水準の推移(連結、国内基準行のみ)
10.66 11.56
11.82 11.90 11.89
8.42 9.15 9.47
9.70 9.90
11.66
11.01 10.67
10.32
0.00 2.00 4.00 6.00 8.00 10.00 12.00 14.00
09/3期 10/3期 11/3期 12/3期 13/3期 14/3期 15/3期 16/3期 17/3期
(%)
自己資本比率 Tier1比率 コア資本比率
(出所:地方銀行協会データよりJCR作成)
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